シンクロトロン放射光・サイト選択励起と液体分子線技術を用いたDNAの放射線損傷における初期過程に対する新しい研究について解説する.記事前編(本誌94号)に引き続き,後編では,水溶液中のヌクレオチド(AMP,ATP,GMP)の軟X線吸収スペクトルについて解説する.窒素原子が塩基部位にのみ存在することに着目し,窒素K殻吸収端近傍の軟X線吸収により塩基部位を選択的に内殻励起した.窒素吸収端近傍に現れる2つの共鳴遷移のピークに水溶液のpHに依存する強度比の違いが見られ,塩基内の特定のN原子のプロトン化構造変化の結果であると結論した.これにより特定位置の窒素原子までを特定した塩基損傷の初期過程研究への糸口を得た.