会長のご挨拶
日本放射線化学会会長 高橋憲司
日本放射線化学会は、1965年に設立されました。第1回放射線化学討論会の開催は、学会設立の8年前の1957年に遡ります。この頃は、日本放射線影響学会や日本保健物理学会など、複数の放射線関連の学会が設立された黎明期です。放射線化学会はその中でも、放射線の基礎科学や放射線利用に関する極めてインパクトのある成果を発表してきました。また、関連する海外の研究グループや学会などとも共創しながら、大きな影響を与えてきました。
「放射線化学」は、放射線によるエネルギー付与により引き起こされる化学反応を扱う学問領域です。「放射線」は、軟X線から硬X線・ガンマ線などの光子、イオンビームや電子線・中性子線などの粒子線と種々あり、それぞれの線種によって物質へのエネルギー付与(物質と放射線との相互作用)の様相が大きく異なります。さらに、エネルギーを受け取る側の状態、つまり液体・気体・固体によって、最終生成物や作用が異なります。したがって、「放射線化学」は、放射線の種類と対象物質の組み合わせにより、新たな応用分野を開く事ができる学問領域です。
X線・ガンマ線などの光子は、極短紫外線の短波長側への延長ですので、エネルギー付与後の物理的・化学的作用は、光化学やレーザー化学の学問領域とも接点があります。また、高エネルギーの光子や粒子が化学反応の鍵となる、プラズマ化学・燃焼化学や宇宙化学も、「放射線化学」が培ってきた基礎科学が活かせる分野です。人類の安全な活動に関わる、放射線計測や吸収線量評価という分野では、放射線化学の基礎的な信頼できるデータの理解の上に成り立つものです。このように、「放射線化学」は、幅広い分野と深いつながりを持つ学問です。
最近は、ナノテラス、スプリング8などの放射光をはじめ、イオンビームや中性子線等粒子線照射を用いた多くの加速器施設が稼働しています。関連施設を利用する研究に携わっている皆様におかれましては、放射線化学が築いてきた学術的データを利用していただき、我々が目指す今後の人類の未来を拓く放射線利用の議論に加わっていただければ幸いです。
(2024年4月5日更新)