2021年 学会誌 第111号

会誌「放射線化学」(ISSN 2188-0115

■2021 No.111 PDFファイル・全ページ

巻頭言

「新しい放射線プロセスを推進する学会活動を」 
青木 康(住友重機械工業(株))[PDFファイル

 

展望・解説

「軟X線領域の放射光を用いたXAFS測定:絶縁体,溶液試料への応用」 
八木 伸也(名古屋大学)[PDFファイル

軟X線を吸収する元素からなる材料の化学状態分析を考えた場合,その材料の電気的な性質や物理的な状態を考慮する必要がある.さらに非破壊的な分析を行う場合は,チャージアップ効果や外気圧に対する効果についても考えておく必要がある.本稿では,He-pathシステムを用いたX線吸収微細構造法によって分析対象材料を”そのまま”で化学状態分析ができることを解説する.また,これまでの実施例として加硫スクアレンとL-システイン水溶液に対して得られた硫黄K吸収端NEXAFSスペクトルの解釈についても触れる.

 

とぴっくす1

「ホウ素中性子捕捉療法に資する水等価線量の測定手法の確立 ~OHラジカル生成量を基準として~」 
楠本 多聞(量研) [PDFファイル

近年,加速器中性子源を用いたホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に注目が集まっている.加速器を用いて中性子場を作製した場合,熱中性子成分の線量に加えてγ線や速中性子によるそれも考慮しなければ加速器BNCTの治療効果の推定や,正常組織への副作用の影響を見積もることができない.そのため,複雑な放射線混成場である加速器中性子場において熱中性子線量を汚染成分のそれと弁別するための手法として,ヒドロキシルラジカル(OHラジカル)の捕捉材として知られているクマリン-3-カルボン酸(C3CA)水溶液を化学線量計として用いる手法を提案する.ホウ素薬剤を添加したC3CA水溶液と添加しないそれを用意し,OHラジカルの生成量とγ線のG値より10B(n,α)7Li反応によるγ線等価線量を汚染成分によるそれと区別して評価した.C3CAを化学線量計として用いることで,従来の方法よりも簡便に10B(n,α)7Li反応によるγ線等価線量を決定可能であることを示した.

 

とぴっくす2

「ウラン回収用樹脂の放射線分解」 
野上 雅伸(近畿大学)[PDFファイル

本稿は,著者らが酸性水溶液からの選択的ウラン回収を目的として開発してきた種々のモノアミド樹脂のガンマ線照射による分解挙動について,これまでの知見をまとめたものである.当該樹脂はモノアミドの化学構造から「鎖状型」と「環状型」に大別でき,両者の分解挙動は大きく異なる.前者では単純なアミド結合の開裂によりカルボン酸と二級アミンが生成する.これに対し後者では,環への酸素付加により開環が生じ,一級アミン型弱塩基性陰イオン交換樹脂とジカルボン酸が生成する.また得られるジカルボン酸は,元の環を構成する原子数にしたがって異なる.

 

とぴっくす3

「チェレンコフ光閾値以下の放射線照射による水の発光現象の発見」
山本 誠一(名古屋大学) [PDFファイル

チェレンコフ光は放射線のエネルギーに対して閾値があり,水の場合,260 keVのエネルギー以下ではチェレンコフ光は発生しない,すなわち全く発光は生じないというのが常識であった.しかし,筆者は,偶然,チェレンコフ光閾値以下の放射線のエネルギーに対して水が発光することを,陽子線を用いた実験中に発見した.その後,陽子線以外の放射線に対しても画像化を試み,この現象は,すべての電離放射線に共通する発光現象であることを確認した.さらに発光機序も明らかにし,発光の応用の可能性も評価しているので紹介する.

 

とぴっくす4

「酸素同位体比年輪年代法の展開とその分析化学的背景」
中塚 武(名古屋大学) [PDFファイル

樹木の年輪幅の変動パターンから,木材の形成年代や過去の気候変動を明らかにする年輪年代学という研究分野がある.それに対し,酸素同位体比年輪年代法は,年輪に含まれるセルロースの酸素同位体の天然存在比を年輪幅に代わる指標として用い,過去数千年間に亘って日本各地のあらゆる遺跡出土材の年代決定を樹種の違いに依らず可能にすると共に,水田稲作の豊凶を通して日本史を左右したと考えられる夏の降水量の変動を正確に明らかにすることに成功した.その成立と展開の背景には,有機物の熱分解による新しい分析装置の開発と年輪セルロースの迅速精製技術というハードとソフトの両面における分析化学の発展があった.さらに,日本における考古学と年輪年代学の長年の連携の上に,歴史学や気候学,樹木生理学までも巻き込んだ異分野融合の推進が,世界でも類例のない長大かつ緻密な年単位から千年単位の気候変動が網羅された正確な気候復元データを生み出し,それは歴史学や考古学,気候学などの文理双方の多分野の研究にさまざまな影響を与えつつある.

 

とぴっくす5

「高効率電子源材料の開発と加速器・X線源への応用」
佐藤 大輔(産総研)[PDFファイル

電子ビームは,顕微観察や微細加工,放射線発生等に利用可能な量子ビームとして,広く応用されている.近年,電子ビーム利用装置(顕微観察装置、加工装置など)においては,「高速化」が共通の課題となっており,そのためには電子源の高効率化・高輝度化・大電流化が不可欠である.このような電子ビーム利用のニーズに対応するため,非常に低仕事関数の物質として知られるイリジウム-セリウム(Ir-Ce)合金に着目し,電子源としての利用可能性を研究している.本記事では,Ir-Ce合金電子源の開発と加速器やX線源への応用の現状について報告する.

 

受賞記事

「イオン液体を放射線化学反応に利用した新規機能性天然高分子材料の開発」
木村 敦(量研)[PDFファイル

カチオンとアニオンの組み合わせにより液性が変化するイオン液体を溶媒として用い,放射線架橋反応を利用することで天然多糖類を原料とした新規機能性材料を創出した.通常,難溶性のセルロースおよびキトサンを各濃度5 wt.%でイオン液体に溶解し,さらに含水率を制御した条件でγ線照射することで,放射線架橋複合ゲルを80 %以上の高収率で得ることに成功した.この複合ゲルの膨潤度,弾性率および耐熱性は,生体電極の応用に求められる値と同程度であるとともに,印加電圧に対する屈曲運動性(曲率)が一般的なイオンゲルアクチュエーターと同等であることを確認した.さらに,得られた複合ゲルは生分解性を有することから,持続可能な社会構築に貢献できる複合ゲルアクチュエーターの開発に成功した.

 

放射線利用紹介 

「ブルックヘブン国立研究所の放射線化学実験施設の紹介」
岩松 和宏(BNL,米国)[PDFファイル

 

討論会の話題から 

「原子状酸素照射による高分子材料表面の微細構造形成:メカニズム解明に向けたフルエンス補正」
後藤 亜希(JAXA),山下 真一(東大),田川 雅人(神戸大)[PDFファイル

「放射線誘発DNA損傷における含水率の影響:2. 塩基損傷およびAP部位」
Hao Yu,近藤 勇佑,山下 真一(東大),藤井 健太郎,横谷 明徳(量研)[PDFファイル

「超短パルスレーザーによる石英ガラスの加工現象のポンプ-プローブイメージング」
寺澤 英知,鷲尾 方一(早大),佐藤 大輔,盛合 靖章,小川 博嗣,田中 真人,黒田 隆之助,澁谷 達則(産総研),小林 洋平,坂上 和之(東大)
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書評 PDFファイル

「放射線化学」
室屋 裕佐(阪大産研)

 

お知らせ PDFファイル

「第64回放射線化学討論会のご案内」
平出 哲也(原子力機構)

 

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