2022年 学会誌 第114号

会誌「放射線化学」(ISSN 2188-0115

■2022 No.114 PDFファイル・全ページ

巻頭言

「閑話三題」
浅井 圭介(東北大学)[PDFファイル

 

展望・解説

「生命の起源における放射線の役割」
小林 憲正(横浜国立大学)[PDFファイル

生命の誕生に先立ち,アミノ酸などの生体有機物が前生物的に合成されたはずである.そのような場としては原始地球大気や分子雲中の星間塵アイスマントルなどが考えられてきた.これらの環境で,銀河宇宙線などの放射線は前生物学合成に重要なエネルギーと考えられる.さらに非対象的な放射線(円偏光やスピン偏極粒子)によりアミノ酸のエナンチオ過剰が生じた可能性も提案されている.本稿では放射線を利用した前生物的合成実験を紹介し,今後の展望も述べる.

 

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「光化学反応の磁場効果:励起光に紫外光を使った場合と放射線を使った場合の相違について」
矢後 友暁(埼玉大学)[PDFファイル

光化学反応が磁場効果を示すことは,1970年代より知られている.磁場効果を示す光化学反応は,放射線励起によっても引き起こすことができる.本稿では,紫外光励起と放射線励起の場合の磁場効果の相違について理論的に考察した.可視光励起では,ラジカル対のスピンコヒーレンスが消失したのちに,再結合反応が起こる.一方,放射線励起の場合には,スピンコヒーレンスが保たれている間に再結合反応が進行する.そのため,放射線励起の場合にのみ,スピンコヒーレンスが反映された磁場効果が観測されると結論した.

 

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「フタロシアニンイオンビーム注入によるダイヤモンド中へのMultiple-NVセンターの形成と観測」
木村 晃介,加田 渉,花泉 修(群馬大学),小野田 忍,山田 圭介,大島 武(量研),寺地 徳之(物材機構),磯谷 順一(筑波大学)[PDFファイル

ダイヤモンド中の窒素空孔(NVセンター)は,室温で機能する固体スピン量子ビットとして知られており,特に,双極子相互作用で結合したマルチプルNVセンターは量子レジスタを実現する可能性を有している.窒素原子を近接した位置に配置することが可能な有機化合物イオン注入は,マルチプルNVセンターの形成が可能な技術として注目されている.本稿では,窒素原子を8個含むフタロシアニンイオンをダイヤモンドに注入した結果および共焦点蛍光顕微鏡(CFM)と光検出磁気共鳴法(ODMR)によるNVセンターの観察手法について報告する.CFM観察における蛍光強度とODMRスペクトルの結果から,1蛍光スポットに4つのNVセンターが形成されていることを確認した.

 

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「SQUIDを用いたアラニンラジカルの放射線化学収量の測定」
山口 英俊,松本 信洋(産総研),高橋 浩之(東京大学)[PDFファイル

アラニン線量計は大線量の測定に有用な線量計の一種であり,放射線照射後に発生するアラニンラジカルの信号は電子スピン共鳴装置を用いて測定される.化学線量計には放射線化学収量という,単位エネルギーあたりに生成・破壊・変化した物質量という量が定められているが,これまで報告されているアラニンラジカルの放射線化学収量の不確かさは10 %以上である.本稿では,超伝導量子干渉計を用いた有効磁気モーメント法を利用して,より小さい不確かさで放射線化学収量を測定した結果について報告する.

 

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「放射線環境下での腐食データベースの整備」
端 邦樹,佐藤 智徳(原子力機構)[PDFファイル

福島第一原子力発電所の格納容器内の汚染水中における腐食環境の評価に資することを目的に,放射線環境下での鉄鋼材料の腐食データ及び関連するラジオリシスデータをまとめた腐食データベースを整備した.今回のデータ整理によって,1F汚染水中の不純物が腐食因子である過酸化水素の生成挙動等に与える影響の解析的評価を可能とするとともに,放射線環境下で生成する酸化剤濃度と腐食速度や腐食電位との関係を示すことができた.

 

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「超高線量率照射効果のメカニズム解明に向けた取り組み」
小平 聡,楠本 多聞(量研)[PDFファイル

通常の放射線治療線量率よりも1000倍以上も高い線量率で行われる超高線量率放射線がん治療(FLASH)は治療効果を維持しつつ,正常組織への副作用を低減できることから大きな注目を浴びている.そのメカニズムとして間接作用を低減する効果との見方があり,短時間での高線量照射による水の放射線分解生成物と酸素との反応や密なトラック構造の重なり合いによるラジカル再結合の可能性が指摘されている.本研究では,超高線量率照射効果を実験的に検証するために,陽子・炭素線照射による水の放射線分解生成物の収率の線量率依存性を調べている.本稿では現在取り組んでいる放射線化学実験で得られた結果・考察について紹介する.

 

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「機械学習を活用した放射線グラフト重合率の予測」
植木 悠二,瀬古 典明,前川 康成(量研)[PDFファイル

従来の高分子材料開発は,研究者の「経験と勘」に基づいた非効率的な試行錯誤的実験に依存している.そのため,新材料開発には莫大な時間的・費用的コストが必要であり,また,高度化・多様化した社会的要請への即応が困難などの問題を抱えている.このような問題の解決策として,近年では,従来の経験的な実験科学に人工知能(AI)や機械学習などのデータ科学を取り入れた「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の活用が期待されている.本稿では,機械学習を活用した高分子材料開発の一例として,放射線グラフト重合反応に使用するモノマー(薬品)の物性情報だけからグラフト重合率を瞬時に予測できるAIモデル開発について紹介する.

 

放射線利用紹介

「山形大学医学部東日本重粒子センター」
岩井 岳夫,想田 光,宮坂 友侑也,Lee SungHyun,柴 宏博,佐藤 啓,根本 建二(山形大学),金井 貴幸(東京女子医科大学),勝間田 匡(加速器エンジニアリング株式会社)
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海外レポート

「オンタリオ工科大学での思い出」
青木 祐太郎(福井工業大学)[PDFファイル

 

お知らせ

「IRaP2022のご案内」
吉田 陽一(阪大産研)[PDFファイル

 

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