- はじめに:X線自由電子レーザーによる光科学の開拓
登野 健介(JASRI) [PDFファイル(837 kB)]
本特集のイントロダクションとして,放射光X線源の進化の歴史におけるX線自由電子レーザー(XFEL)の位置付け,我が国におけるXFEL開発の経緯,期待される成果について概説する.SACLA (SPring-8 Angstrom Compact free-electron LAser)は,高いピークパワーと空間的コヒーレンス,フェムト秒領域のパルス時間幅といった性能を誇り,これまでのX線源とは一線を画するものである.このような特徴が実験でどのように活かされ,新しい知見に結び付けられるか,例を挙げて簡単に紹介する.
- SACLAの概要:光源特性と利用実験技術
登野 健介(JASRI) [PDFファイル(1.5 MB)]
X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAが2012年3月より供用運転を開始し,およそ1年と半年が経過した.30 GW超のピークパワー,10 fs以下のパルス時間幅,完全に近い空間コヒーレンスといった光源性能を活用し,フェムト秒の露光で試料を観察するというこれまでにないスタイルのX線利用実験が展開されている.生物科学,物質・材料科学,X線光学,極限状態物質科学など多岐にわたる分野の実験に対応するため,幅広いXFEL利用実験技術の開発と整備も進められてきた.本記事ではSACLAのXFEL光源について概説するとともに,利用実験のための基盤技術を紹介する.
- Coherent Diffraction Imaging and SACLA
Changyong Song(理研・放射光) [PDFファイル(2.8 MB)]
X線自由電子レーザー(XFEL)は,10フェムト秒の時間パルス幅内に1000億個もの光子が存在するような,コヒーレントで強力な短パルス光という前例のない特性を持つ光を用いて,X線科学の歴史の新しい時代を創ろうとしている.XFELを用いた単一ショット回折イメージングが,イメージング科学における新しいパラダイムとして開発され,ユニークな研究分野を開くと期待されている.本稿では,SACLAにおける,様々な単一ショットコヒーレント回折イメージング(CDI)実験を紹介する.また,将来的な科学への応用やさらなるアップグレードに関する展望についても述べる.
- フェムト秒レーザー駆動衝撃圧縮下のその場XFEL回折計測
佐野 智一(阪大院工) [PDFファイル(1.3 MB)]
我々は,固体にフェムト秒レーザー駆動衝撃波を負荷することによって,従来衝撃圧縮法では達成されない準安定高密度相の凍結や,高密度格子欠陥の導入に成功してきた.これらの機構を解明するにはその場計測が有効であり,格子のダイナミクスを直接描画するにはX線回折(X-ray Diffraction: XRD)が適している.従って,フェムト秒レーザー駆動衝撃圧縮下のその場XRDを実施すれば良いわけであるが,フェムト秒レーザー駆動衝撃波の立ち上がり時間は数psであり,高圧保持時間はns以下であるため,そのダイナミクスを計測するにはps以下の時間幅のプローブが必要である.また,フェムト秒レーザー衝撃圧縮下で起こる現象は物質の初期状態に大きく依存するため,シングルショットでの計測が不可欠である.これらの条件を満たすのがX線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser: XFEL)である.本稿では,フェムト秒レーザー駆動衝撃波による準安定高密度相凍結ならびに高密度格子欠陥導入の例をいくつか紹介し,2012年3月から一般供用が開始したSACLA(SPring-8 Angstrom Coherent LAser)におけるフェムト秒レーザー駆動衝撃圧縮下の時間分解X線回折実験の実施例を紹介する.
- X線自由電子レーザーを用いたフェムト秒タンパク質X線結晶構造解析
吾郷 日出夫,平田 邦生,上野 剛,山本 雅貴(理研・放射光) [PDFファイル(3.0 MB)]
フェムト秒タンパク質X線結晶構造解析は,XFELを用いた新しいタンパク質X線結晶構造解析の手法であり,タンパク質結晶構造解析の質と効率を向上させる.特に,XFELの高強度極短パルスX線を利用することで,通常の放射光X線とは異なり,大きな結晶を測定対象としても試料が放射線損傷を受ける前に高分解能構造解析が可能である.本稿では,我が国のXFEL施設であるSACLA(The SPring-8 Angstrom Compact LAser)におけるフェムト秒タンパク質X線結晶構造解析の研究を紹介する.
- XFELによる希ガス原子の段階的多光子多重イオン化
福澤 宏宣,本村 幸治(東北大多元研),永谷 清信(京大院理),和田 真一(広大院理),八尾 誠(京大院理),上田 潔(東北大多元研) [PDFファイル(1.0 MB)]
我々は日本のX線自由電子レーザー(XFEL)施設,SACLAで得られる光子エネルギー5 keVと5.5 keVのXFELパルスをキセノン原子に照射し,多光子多重イオン化過程により生成した多価イオンを観測した。5 keVでは最大22価,5.5 keVでは最大で26価のキセノン原子イオンが観測された.このことは10 fs程度のXFELのパルス幅の間に,重原子がX線を吸収してはオージェ電子を次から次へと放出する過程を何度も繰り返すことを意味する.このような重原子の動的過程を正確に記述することは,SACLAの強力X線を用いる構造解析に不可欠なものとなる.
- おわりに:SACLAとXFEL利用研究の可能性
登野 健介(JASRI) [PDFファイル(838 kB)]
特集の最後に,XFELと利用研究の今後について述べる.日本と米国のXFEL施設で利用実験が開始されてから数年が経過し,XFEL科学の発展の可能性をうかがわせる研究成果が出始めている.一方で,現状のXFEL光源について多くの課題が明らかになってきており,出力増強,時間的コヒーレンスの向上,新しいビームラインの建設といったアップグレード計画がSACLAにおいて進められている.いまだ進化の途上にあるXFEL科学について,期待と可能性を記す.