本稿は,アルカリ骨材反応によるコンクリートの劣化機構,および放射線照射によるアルカリ骨材反応の加速効果についての,著者のこれまでの研究をまとめたものである。その内容は以下のように要約される。
1) これまでの定説とは異なり,アルカリ骨材反応によるコンクリートのひび割れはカルシウムシリケートの生成によって生じる。砂利や砂などの骨材中の反応性シリカ成分とセメント中のアルカリ分との反応で生じたアルカリシリケートゲルは,骨材表層部を密に覆う。このゲルはアルカリの消費に伴って溶出したカルシウムイオンとさらに反応するため,骨材は堅いカルシウムシリケート層で覆われることとなる。カルシウムシリケート層を浸透したアルカリ溶液はその内部をアルカリシリカゲルに変え,コンクリートを割るのに十分な膨張圧を骨材内に発生・蓄積させる。このためコンクリートがひび割れ,膨張する。
2)本邦の骨材中の主要成分をなす水晶や斜長石はアルカリ反応性鉱物ではないが,放射線を照射すると反応性鉱物に変化する。特に斜長石は100MGy程度の比較的低線量の放射線で非晶質化し,アルカリ反応性となる。これらの結果は,原子炉炉心を取り囲むコンクリート構造物は,放射線促進アルカリ骨材反応による損傷を受ける可能性があることを示唆している。