2021年 学会誌 第112号
会誌「放射線化学」(ISSN 2188-0115)
■2021 No.112 [PDFファイル・全ページ]
巻頭言
「放射線化学の展開に向けて」
中川 清子(都産技研)[PDFファイル]
展望・解説
「真空内微小液滴への重イオン照射システムの開発:重イオン誘起反応の質量分析学的研究」
間嶋 拓也(京都大学)[PDFファイル]
MeVエネルギーの高速重イオンビームが液体表面で誘起する複雑な反応過程を調べることを目的に,高真空内の微小液滴表面から放出される正負の二次イオンの質量分析学的研究を行った.特に最近,前方散乱イオンとの同時測定を行うことで,正負イオンの系統的かつ網羅的な分析が可能になった.また,前方散乱イオンのエネルギー情報から,液滴標的の透過厚さをイベントごとに評価した.サブミクロン領域で,二次イオンの質量分布や運動エネルギーが変化するなど,未知の「サブミクロン効果」の存在を確認した.本解説記事では,開発した実験システムとエタノール液滴に対して得られた最初の代表的な測定結果を紹介する.
とぴっくす
「電子線,陽子線,炭素線のPHITS飛跡構造解析モード」
松谷 悠佑,甲斐 健師,小川 達彦,平田 悠歩,佐藤 達彦(原子力機構)[PDFファイル]
Particle and Heavy Ion Transport code System(PHITS)は,放射線挙動を模擬する汎用モンテカルロコードであり,原子力分野のみならず工学,医学,理学などの多様な分野で広く利用されている.PHITSは2010年に公開されて以降,機能拡張や利便性向上のために改良が進められてきた.近年,電子線,陽電子線,陽子線,炭素線の4種類の荷電粒子を対象として,液相水中における個々の原子との反応を模擬できる飛跡構造解析モードが開発されてきた.この開発により,PHITSで従来計算可能であった巨視的な線量付与に加えて,DNAスケールまで分解した微視的な線量付与の計算が可能となり,原子物理学,放射線化学,量子生命科学分野への応用が期待されている.本稿では,最新版PHITSに考慮されている飛跡構造解析モードの物理特性や,同モードを使用して得られる計算例について紹介する.
とぴっくす
「DNAの水和構造から放射線損傷サイトを検証する」
米谷 佳晃(量研)[PDFファイル]
水は放射線によるDNA損傷生成の過程において無視できない要因であるが,分子レベルにおける両者の関係は十分にわかっていない.本稿では,DNAを囲む水とOHラジカルの分子動力学(MD)シミュレーションから分子レベルの解析を行った最近の研究成果について紹介する.DNAバックボーンの反応サイトH1′-H5’に対する水とラジカルのアクセス頻度が計算されている.得られた計算結果は,実験から得られている損傷生成の反応性と相関していることがわかり,反応サイトによる損傷生成の違いが,アクセシビリティーといったミクロな性質に依存していることがわかってきた.DNAの構造揺らぎや静電相互作用の寄与も明らかになってきた.
とぴっくす
「抽出クロマトグラフィ用吸着材の安全性評価と放射線劣化が分離操作に及ぼす影響」
宮﨑 康典,佐野 雄一(原子力機構) [PDFファイル]
抽出クロマトグラフィは,使用済燃料再処理で発生する再処理高レベルの放射性廃液からマイナーアクチニド(MA; Am,Cm)を分離する技術の1つです.N,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサオクチルニトリロトリアセトアミド(HONTA)を含浸した吸着材の安全性について,γ線照射前後の熱的特性や吸着性能の変化,並びに水素ガスの発生量を評価しました.MAをランタニド(Ln)から分離可能な最大線量を1 MGyとして,現在の想定設備以外に冷却ユニットやオフガスユニット等の予防措置が必要ないことから,MA分離プロセスの成立実現性を示しました.
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「極端紫外線フェムト秒レーザーを用いた高精度材料加工」
澁谷 達則,黒田 隆之助,大島 永康(産総研),坂上 和之(東大)[PDFファイル]
高精度レーザー加工は次世代自動車技術,通信技術,バイオテクノロジー技術など様々な分野への応用が期待されている.高精度化には,材料の亀裂や熱溶融部分を極力小さくすることができるレーザー照射条件を見出すことが必要である.ここでは,光学的減衰長の異なる2つの条件で照射を行い,材料の形状や結晶状態を比較する実験を行った.この結果から,光学的減衰長が短い場合,材料の亀裂や熱溶解は小さくなるという事実を明らかにした.さらに,この知見に基づいた照射条件を満たすことで,フェムト秒レーザーでも加工が難しい石英ガラスの高精度加工に成功した.
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「サツマイモ害虫ゾウムシ類の不妊虫放飼による根絶防除」
熊野 了州(帯広畜産大)[PDFファイル]
不妊虫放飼とは,対象となる害虫を大量増殖し放射線で不妊化した後,防除地域に放飼する害虫防除の手段である.農薬を使用することがなく広域的に生息する対象害虫を根絶させることができるため,環境に優しい害虫管理法として,ハエ類の防除を中心に世界中で利用されている.高い効果を得るには交尾能力の高い不妊雄を放飼する必要があるが,そこで不可欠となる放射線による不妊化は,生殖細胞だけでなく体細胞にも悪影響を及ぼすため,「虫質」を低下させることが問題となっていた.本稿では,沖縄県で進められているサツマイモ害虫のゾウムシ類根絶プログラムを中心に,不妊雄の交尾能力を向上させる照射技術について説明する.
とぴっくす
「放射線化学の宇宙実験への参画の可能性」
中川 和道,柴田 裕実,吉田 陽一(阪大),前川 康成(量研)[PDFファイル]
宇宙実験の舞台は,現在の国際宇宙ステーションISSに引き続いて,月軌道プラットフォーム ゲートウェイ,月面基地,火星などへと広がる計画が実行中である.放射線化学の得意分野である材料科学はもちろんのこと,線量測定,食品科学,医科学,生命科学など広い分野で,放射線化学が宇宙実験に参画していくことが有意義である.
とぴっくす
「可逆的ラジオクロミックゲル線量計の開発」
砂川 武義,青木 祐太郎(福井工大)[PDFファイル]
近年,放射線を使用したがん治療が実用化されている.放射線がん治療において線量分布を正確に評価するための放射線可視化技術が必要とされている. 我々は部分ケン化ポリビニルアルコール(PVA)水溶液,ヨウ化カリウム,ホウ砂,果糖を原料とした新しいタイプのゲルインジケータ(PVA-KIゲル線量計)を開発した.PVA-KIゲル線量計は,吸収線量2 Gy-100 Gyの範囲においてX線,γ線,陽子線,中性子線などの放射線を可視化する優れた特性を持っている.さらに,放射線照射により赤色に着色したゲルを加温することにより,ゲルを無色にする再利用性を備えている.本とぴっくすでは,PVA-KIゲル線量計の詳細について説明している.
放射線利用紹介
「東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)の利用紹介」
寺川 貴樹(東北大)[PDFファイル]
放射線利用紹介
「阪大産研量子ビーム科学研究施設の紹介」
誉田 義英,藤塚 守,古澤 孝弘,吉田 陽一,細貝 知直(阪大)[PDFファイル]
放射線利用紹介
「中国科学技術大学における放射線化学研究」
林 銘章(中国科技大)[PDFファイル]
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